『読ませる技術―コラム・エッセイの王道』

『読ませる技術―コラム・エッセイの王道』
著:山口文憲 出版:マガジンハウス

図書館でうろついているときに発見して、ページをめくっていくうちにハマる。閉館間際までかけて、2時間ほどで一気に読んでしまった。帰りに寄ったブックオフに置いてあったので、買おうか本気で悩んだ(お金が無かったので諦めた)。

本書は、エッセイストとしても有名な山口文憲(他の作品は読んだこと無いけど…)が関川夏央(この人も知らなかった)と長年行ってきたコラム・エッセイ講座の経験をもとにして、「文章の書き方」について様々な視点から解説するものである。

「うまい文章を書く秘訣はないが、まずい文章を書かないコツはある」冒頭で語られる言葉。この一言が全体の内容を物語る。つまり、うまく書くというよりも、まずい文章を、まずいまま書き起こしてしまうのを防ぐ技術を解説していると言っても良いのかもしれない。
本書では、著名なエッセイストたち(群ようこ等)はどうして面白い作品ばかり量産できるのか、についても言及している。
それは、いわば野球で言う「選球眼」。王選手が打てる球だけを見極めてバットを振っていたように、プロは上手く、面白く書けるテーマだけを選んでいく。言ってしまえば、面白くもなりそうにないテーマはわざわざ文章にしないのだ。それは根本的に、エッセイにおいてエピソードの優劣が文章力だけでは補いきれないということでもある。

次に、オリジナリティー。「読む人は、あなた自身の話など聞きたくもない」という言葉が非常に強烈。特異な体験はたしかにオリジナルだが、経験をもつ人は少ない。個人にとっては特別−例えば、肉親を早く亡くすなど−でも、世の中にはあふれている事柄。冷酷なようだが、事実、テレビのドラマでも人は死んでいくし、エピソードとしての「死」はあまりに多く語られている。そのなかでオリジナリティーを発揮することは、確かに難しいだろう。あくまで、書くからには読まれる文章にしなければならない。
ではどうするかと言うと、やはり「切り口」が重要になってくる。一般論で終わらせない工夫!自身のフィルターをかける作業だが、これは日ごろ自分がどのような意識で世の中を見つめているか、だと思う。群ようこの作品などは、この視線が非常にすばらしい。どこまで、深いところを見つめているのか。

ここで素人について考えてみる。一つのテーマを扱うつもりがどうでもいい事ばかり書いて、脱線して、結局何を言っているのかわからない文章になってしまったりしないだろうか?主軸をすえたはずが、あらぬ方向へ話が飛びすぎて、支離滅裂になってしまっていないだろうか?言うなれば、フォーカスが合っていないのだ。核心として、どこを強調するか、という。

本文中では、いい文章を書くための6つのポイントが示される。テーマ・ロジック・プロット・スタイル・ギミック・エピソード。適当に解説すると、テーマは主題で、ロジックは文章全体の理論。プロットは文章構成、スタイルは文章スタイル(語句調)。ギミックは文章への仕掛け(ネタというか…)。エピソードは具体性を持つ話。これらを意識・実行することで文章の内容は飛躍的に良くなる。正確に言えば、「人に読まれるため」の文章になる。

独りよがりからの脱出。自らの所感をつづるエッセイ(日記でも)の形式だからこそありがちな現象をいかに回避するか。世の中に素人の文章があふれるようになったからこそ、「見る・書く」技術を身につけて、「人に読まれる」文章を書いていきたいなぁ、と実感した一冊だった。




 さて、これを読んでいて、だめな文章についての言及はほぼ全て、自分にグサリときました。上の素人についての文章は、書いていながらまんま自分自身への批判です、ハイ。やっぱり、無駄な長さは必要ないよね…。要は、意味を持った密度の濃さが大切なんだと思います。
 この手の技術をあまり手ほどきされた事が無い人にとっては、結構参考になる本だと思いました。『読ませる技術』だけのタイトルで文庫にもなっているので(630円)、興味をもたれた方は一読をオススメしておきます。他にも、読み手にイメージさせる方法、意外性を生む方法など、なかなか文章で表現できない技術についても記してあるので、「それを書く技術」についての勉強にもなるかもしれませんね。