網目模様の一日

pechon2007-07-18

目覚ましが鳴る。体を無理に起こすため、少し遠くに置いてある。隣人に迷惑になる。飛び起きる。

「バキャッ……」

嫌な音がする。足に無機質の感触。布団との間に何か…


携帯だった。


ぎ……
ギャアアァァァーーーー ←心の叫び


やってしまった。いつかやるだろうと思っていたけど、ついに現実になってしまった。

一瞬で目が覚める。そうか、これは新種のカフェインだ。飲むタイプ(眠眠打破)、舐めるタイプ(眠眠打破シート)はあったが、この見る、聞くタイプは新種ですね。聞くカフェイン、効くカフェイン。


致死量は、他のよりも圧倒的に少ないようだが。 あと1回で逝けそうだ。


ふらふらしながら携帯を見る。予想に反して、外観には変化が無い。おっ、案外大丈夫なのかもと、中を開く。


液晶画面は、いつも通り点灯した。 そして、


さぁぁ………と静かな余韻を残しながら、ゆっくりと、消えていった……。



(完)



ぎ……
ギャアアァァァーーーーーーーー ←魂の叫び


危うく、液晶画面と一緒に、意識も消え失せてしまうところだった。
どうしてこんなことに……


ドコモショップで直してもらおう…処置を諦めて、外に出ようとドアを開ける。


「ネバルゥゥーン」


まさかの蜘蛛の糸

「うわぁぁぁぁ!!」思わず声が出る。ただでさえ精神状態が不安定になっているのに、大嫌いな節足動物を目にしたからだ。

なんだこれは、本当に、昨日のタイヤの呪いなのか!?
ホーム・アローンみたいなことすんな!ノリで死ぬぞ!?

泣きたい気持ちで、ペダルを力一杯漕ぐ。呪われたタイヤはそれに応え、駆け抜ける風が髪の毛を揺らす。 ゆらゆら……

そういえば、2日前に、北海道に行った友達から「ケータイの基盤がやられてデータがとんだ。他の人の連絡先教えて!」とメールが来ていた。どうも、同じような状況になりましたよ。一蓮托生、強い友情。こんなところで再確認するとは。

あの日は、自分が助言していた。「携帯も信用できないからね。データはアナログやパソコンにバックアップしておいて方が良いよ」と。

自分は、言ったくせにしていなかった。

自己嫌悪。そんな中で、自分の考えが裏打ちされたことに気づく。

日頃から自分が思っていることの一つに、「経験とは、それがよほど希有な場合でない限り、殆どすべてが共有されうるものである」というものがある。平たく言えば、自分の身にもいろんな事件が及ぶかもよ、ということだ。一本の糸のように、経験それぞれは、人の世によこたわっている。

ニュースや友達から事故・事件・失敗の話を聞くたびに「でも、自分の身にも起こりうるよな」と注意するようにしている。伝え聞くことは、自己を戒めるチャンスなのだ。

なのに、これだ。
最近自分が腐っていたことがよくわかる。悔しさが、尾を引く。

しかしそうやって落ち込んでいるときに、気にかけていたとある人から電話が入る。久しぶりに聞く声に、なんだかこっちが元気付けられた。

世の中のバランスは本当によくできているんだなぁ、とすごく実感した。辛い気持ちだけで終わる一日はそんなにないし、幸せな気持ちだけで終わる日も滅多にない。

例えてみて、幸も不幸も、同じくらいにたぐり寄せ、紡いでいく糸が経験であり、その糸で縫い上げていくのが、人生といえるのではないだろうか。
蜘蛛は縦にも横にも、外側からも内側からも糸をかけ、あの見事な模様をつくっていく。


携帯を踏んづけた朝から今に至るまで、そんなことを考えていた。