ゲーセンに行ってしまったり。

同じ広島に住んでいるのだが、大学は違う、そして今は地元に帰ってきている友達からメールが来た。暇なのでどこかへ遊びに行こうというのだ。彼は車を持っている。折角なので隣町の古本屋にでも連れて行ってもらおうと返事を出す。

友人は真っ赤なパジェロミニでやって来た。車高が高く、乗っていると体がすこし浮いた感じがする。一般のものよりも大きめのタイヤらしい。オートマティックのレバーを動かし、滑らかに道路をゆく。12,3年前のものだというこの車には少し不似合い、いや不自然なカーオーディオから洋楽が流れてくる。アヴリル・ラヴィーンだと彼は言った。「知ってるか?」と試すように聞かれたが、さすがに有名どころは自分も知っている。その言葉を受け取った友人は少しつまらなそうな表情をした。

ブックオフに着いて、物色を始める。予算がないのであまり買えなかったが、今日一番の収穫は、安野モヨコ「さくらん」を105円で入手したこと(良品)。後で読んだが、素晴らしい作品だった。

店内をうろついている時、自分の正面から誰かが向かってくるのが見えた。なんとそれは、今は就職している友人だった。一緒に来た友達にメールを送り、居場所が近かったのでやって来たらしい。ならば次はと、そいつの車で外に出る。その前に商品をレジに通したのだが、そのバイトが中学時代の友人でびっくりした。男子バレー部として同じ日々をすごし、最後の大会で散った後に「もう、バレーはしないぜ!」と腕組み誓い合った仲だ。高校からはコースの違いで会うこともなかったが、会話は普通にした。彼曰く「前も来てたよね」だったが、それならそのときに声を掛けて欲しかった。恥ずかしいじゃないか、前にどんな本を買っていたか知られてるってことじゃないか!
それにしても、この男、前にも増して背が伸び、漂う今風の雰囲気から「モテる」ということがバリバリ感じられた。(ちなみにキャラも面白い)そういうオーラとは無縁の男共とうじゃじゃけて日々を過ごし、外部から与えられる情報だけで妄想を持て余し、ついには夢という幻想で逢瀬を交わすような人間であった自分にとって(中盤以降ウソ)、かのような人間は信じがたい。ホログラムじゃないのか。それともミストによる光の屈折、もしくは建物2階オフハウスに超能力者が潜んで持ち前のサイコメトリックをもって自分の脳波を乱しているのじゃないかと自分で自分のバイタリティをかき消してしまいそうになる。駄目だ、現実を直視するんだ。なんと残酷な仕打ちだろうか。人は見た目が9割


合流した友人の車はうかいやに行ったあと、ゲームセンターアイビスに進む。車の持ち主以外はこのような場所に全く興味関心をもっていないのだが、奴はスロットがしたいという。新世紀エヴァンゲリオンのものだそうだ。すぐさま台を目指して突っ走っていく。追っても仕方ないので、残された2人は店内をうろつく。
それにしても、最近のゲームセンターというのは凄い。というか、置いてあるゲームが凄いのだ。一昔前に話題になった「アヴァロンの鍵」など、卓上にあらかじめ購入したカードを自分で並べ、自ら戦術をたててゲームを進めていくゲームがずらりと並んでいる。三国志や、サッカーのようなもの。またはマージャン、ガンダムもある。どこのスペースにも、何人か、いかにも「俺、打ち込んでます」みたいな胡散臭い者どもが鎮座し、ゲームに興じている。確かに面白そうだが、この手のものは最初にカードを買ったり、記録用のICカードも買ったりで、初期費用がまず高い。嵌りすぎると戻ってこれない気がする。こういうものに熱中している人間に限って、また中毒性の高いタバコを吸っているから困り者だ。店内はどの階層も非常に空気が悪い。肺が痛くなってくる。
連れは一度「タイムクライシス」をやっていたが、2面でやられて「あかんわー、銃が重すぎ!」と放り出してしまった。そろそろスロットも終わっているだろうと、ギャンブルコーナーに赴く。


「ざ〜ん〜こ〜く〜なてんしのよぉ〜に〜」


あろうことかフィーバーしていた。


「おい、もうやめろって!」「いい加減帰るぞ!」
「うるせぇ、今帰れるわけねぇだろぉ!?」
そりゃごもっとも。この男、先ほど行ったうかいやで何やら怪しい、眼球が顔の面積の3分の1くらい占めているんじゃないかというような制服姿の少女が2人ほどプリントされた表紙のコミックスを手にとって狂喜しており、「だってネリネちゃんが主人公だぜ!?男なら買いだ」と乱舞していたツワモノである。そんな男が好きなアニメのテーマソングを放り出すわけがない。


お前にも、“魂のルフラン”を聴かせてやりてぇんだけどな」

いや、別にいい。ルフランルフラン言う前に俺の魂は別のところへ逝ってしまいそうだ。


結局奴のストックが尽きたのはそれから30分以上経ってからだった。ずっと見ていても仕方がないので、適当な椅子に座って、持ち歩いている小説を読んでにやにやしていた。ちなみに今回のへんてこりんりんな文体はその小説の影響である。足元にも及ばない劣化ものに過ぎないが。


家に帰るともうフラフラだった。慣れない所へ行くと疲れる……。ああいう場所を好む人間は確かにいると思うが、そんな真性のものとは相容れないだろうな、と実感した。あの男がそうならないことを願うばかりである。