帰還道中ぶらり旅 (今回メチャ長いです)

広島への帰り道、適当に途中下車して歩き回ってみようと考えた。学生だから時間もあるし、大げさに言うと、まぁあてもないぶらり旅といったところ。
自分は古本屋が好きなので、まずはにぎやかな岡山駅で下車し駅の周りを適当にうろついた。何も考えずにちょっと大通りから外れた通りを真っ直ぐに突き進んでいたら、何かの店員らしき女性の方に「どこかお探しですか」と聞かれ、用件を言うと「こっちの通りは居酒屋などばかりですよ」と教えられた。助かった。ていうか普通に考えて道脇は居酒屋通りじゃないか。昼からいったい何を考えているんだ俺は。


気を取り直し、大通りを闊歩する。大きな建物が目に付いた。「ドレミの街」と書いてある。看板には色々なお店が載っている。他に行くところもないし、入ってみた。
建物は広く大きく、5階くらいにかなり大きな本屋があった。店名は確か「本の森」だったような気がする。もしかすると「森の本」かもしれないが、それなら店内には檜やら何やらが生えていたり、あるいは森林の写真や森林浴に関する情報(もしくはその類のヌード写真)が載った本ばかり並んでいるはずだ。当然置いてある小説は「ノルウェイの森」(村上春樹)だ。だが、ここのお店は別に大きいだけで特にネイチャーな取り組みはしていなかったのでまぁ「本の森」だろう。だから何を考えているんだ俺は。
広い空間にはたくさんの棚が並び、ジャンルごとに整理されている。古書売り場もあり面白かったが、一番気になったのは「鉄道関連」のコーナー。何故かハードカバーの小説の棚だなと同じくらいの幅をとっている。なぜここまで一つのジャンルに力を入れるんだろうと思ったが、よく考えると岡山市内(だから今いる建物の正面も)は路面電車が運行している。道を渡る際に、カメラを構えている男性もいた。つまり、集まるのである。とすると、広島市内の本屋でも同じ現象が起こっているはずだ。また検証したいと思う。


岡山も適当に切り上げ、再び電車に乗る。次は三原で降りる。そこまで来ると最終地点の西条はすぐ近く。

とりあえず三原では、今まで電車の窓越しに見ていたジャングルブックに行ってみたかったので、確実に巡り会えるよう大体の場所は確認しておいた。すると荷物を抱えたままではとても歩いては行けない距離だったので、自転車をレンタルすることにした。情報を聞きに行った観光案内のところでそのサービスをやっていると聞き、これは幸運だと喜び、素直に500円を払い、貸してもらうことにした。


ママチャリを貸して下さいました。


この頃の月に似た弓なりのハンドル、身長足共に短い人のための低いサドル、そして周囲に自己の存在を誇張するためとしか思えない巨大な漆黒の網カゴ。これこそまさにママチャリクオリティ。
仕方なく、というかこれでも渡りに舟だと思い聞かせ(実際すごく助かるし)、ぱんぱんのカバンをカゴに放り込み、男一匹石畳の真っ直ぐな駅前通りを駆け抜ける。右側には駅から出てくる女子高生たち、左側は乗客を待つタクシーの群れ、そして保護者たち。三原市にお金を落とそうとしている人間に対して何という仕打ちだろうか。前輪の鍵に付けられた「三原市観光協会」と記されている青いタグが翻る。視線を集め、風を切る銀色の車体の後輪タイヤ上カバーには、赤く「NO.4」と書いてある。恥ずかしい。だがそれ以上に「これでは俺がレンタルサイクルに乗っていることが伝わらないじゃないか」とも思ってしまう。いっそ「観光中」と書いた旗でも付けてうろついてやろうかとも考えた。
だがそれでは桃太郎みたいじゃないか。
さっきちょっと岡山を歩いたからといってそれはないだろう。仕方ないので開き直ったように平然とした表情を作りながら道路沿いに自転車を漕いでいった。


ジャングルブック以外に、もう一つ調べていたことがある。三原市の名産物、というか食べ物だ。駅に看板があったが、タコが有名らしい。それともう一つ、「来々軒」というラーメン屋が良い、ということを知った。どうせならどちらも体験してみたい。

そう言いながらも地図は持たず、何となくの方角をただ走り続ける。来々軒は何とか見つけた! だがオープンは2時間後だった。時間を潰してから来よう……。
まだジャングルブックは見つからない。ちょっと困ったが、やはりどうしようもないので、少しだけ駅から離れた道路沿いを行くことにした。それは国道二号線だ。

道路沿いはさすがにお店が多い。正確に言うと、チェーン店が多い。ジョイフルが現れたあたりから、それまでの狭い抜け道の閑とした家々が流れるばかりの風景が一転する。視界が開け、そこを進んでいく自分の心もハイになる。そして口をついて出てきた鼻歌のメロディーは、なぜか「ジャパネットたかた」だった。

じゃーぱねっとじゃーぱねっふぅふぅっ!」やけにノリノリになりながら、荷物の全体重を受けたカゴがタイヤと自分をを強引に誘導していく。しばらく進むが、それでもジャングルブックは現れなかった。

少し混乱してきたが、もう大分回ったので、あとの可能性は限られている。もう少しで見つかるはずだ。途中巨大なゲオを見つけたりしながら横断歩道を行ったり来たり。と、そうしていたらついに見えてきた。ジャングルブック、発見!


期待はずれだった。


いや、正確に言うと「自分ちの近くの方が良い」ということなのだが。しかし何も買うものもなく、少し肩を落として建物をあとにする。

そろそろ喉が渇いてきたので、どこか適当な店で飲み物を買おうと決心(大袈裟)。NICHIEIとかいうやや大きめのスーパーを見つけたのでそこに自転車を停める。このお店、自分は「ニッチー」だと思ったのによく見たら「ニチエイ」と書かれていた。良いじゃん、ニッチー。なんだか、キャッチー。

店にはいるといきなりパイナップルをたたっ切って即売会をしていた。中身一本350円。だがちょっともったいない気がしたのでスルー。折角スーパーに来たんだ、有名な三原のタコとやらを見せてもらおうと海産物コーナーへ。タコ発見!どんなのだろうとパックを手に取って見てみる。


北海道産だった。


おいちょっと名産物! 地元の置こうよ地元のを!! 思わず声に出して突っ込んでしまいそうになる。これもスルー。ここで飲む物は確保して、後は何も買うものはないかとうろつく。すると……野菜コーナー(ちなみにこちらの地方は多くの種類のブドウが並ぶ)にて、長いもがグラム38円だった。安い。思わず一パック手にとって、レジを通す。


広島の方へ帰ってきて最初に買ったのが「長いも」ってどうよ。


しかし買ってしまったのは仕方ない。またすり下ろして何かに入れて食べよう。ジュースも飲んで、気がつけば来々軒の開店時間が近づいていた。ちょっと立ちこぎの姿勢になって急ぐ。


有名店だというが、来々軒はとても地味な通り、またそれも道路から少しだけ入った建物の角に位置しているので空間的にもスペースが狭いことが外観から分かる。若干不安になるが、ままよ、と自転車を置いてのれんをくぐる。

そこは人が2人並んでは通れないような直線、その左に4人座りの席が3つ、右にはカウンター、壁越しに厨房がある構造だった。確かに古さがあるが、食券販売機が置いてある。「中華そば」「ギョーザ」「ライス」を買う。計1000円。予算よりは安い。
取材拒否の店と聞いていたが、店長の壮年を越えているであろう男性は愛想良く動きも颯爽としており、予想していた「頑固一徹オヤジ」には程遠かった。奥さんらしき女性と2人で切り盛りされている。店内には既に2人の自分と同い年くらいの男性、母親と子供2人の2グループが料理を待っていた。
しばらくして、中華そばたちがやってきた。まず見るに、麺が非常に細い。そうめんより若干太いか……というくらいにである。そしてメンマとチャーシュー、ネギが盛りつけてある。
一口食べてみる。……美味い! 魚介系で出汁を取っているのだろうか、えらくスープはあっさりとしており、しかし嫌なえぐみは一切無く、これは実に食べやすいという具合にどんどん箸がすすむ。具も味付けが良く、バランスがすごい。言えば「ふつうのラーメン」なのかもしれないが、その「ふつう」という普遍性への挑戦とも取れる出来だ。ここまでシンプルさを徹底しているものもないだろう。これはもう、簡潔さを追求することでオリジナリティーが生まれているようだ。まさにこれは「中華そば」。仕事あがりの一杯として食べられたら本当に美味しいだろうと思う。ギョーザの方は、多めの油で揚げるように焼いたのだろうか、片面は一様にきつね色で、出されたタレはやや酸味のある、言えば水餃子のタレに近いものだった。だから簡単に言うと「水餃子のタレで食べる揚げギョーザ」。ご飯がよくすすむ美味しさ。食べている間は幸せだった。こと中華そばに関しては、これまでの外食のなかで一番美味しい中華そばだったと思う。
大満足で食事を終え、自転車を返しに行く。戻したところで「えらい汗をかいて〜」と言われた。まぁそりゃラーメンをはふはふ食いましたから。
さて帰ろうと切符を買いに行く。親から頼まれた写真も撮り、次の電車はいつだろうかと時刻表を見る。44分発。そうか、と思いふと携帯で時間を確認する。


出発まであと2分だった。


「ひぎゃぁぁぁ!!」訳の分からない声が漏れる。全速力ダッシュ!! かんかんかんと階段を駆け上がり、電車に飛び乗る。何とか間に合った……っていうか自分が電車に乗るときってどうして決まってギリギリなんだ。かいた汗の上にまた汗が流れる。


電車はゆっくりと動きだし、しばらくしてやっと西条に着いた。久しぶりの空気……! 預けすぎていた自転車の料金を精算し、家へ向かう。川沿いの帰り道の途中、槇原敬之の「LOVE LETTER」を熱唱していると、どんどんテンションが上がってきて、声もどんどん大きくなる。歌も終わりにさしかかり「大好きだ 大好きだって とうとう言えないままァー 君は遠ォくの街に 行ってしまうからァー」とノッていたら、前方から同じく自転車を漕いでくる男性が、すれ違い間際、ハンドルの間で腕を組み、そこに顎を埋めながらじーっとこちらを見ていた。


恥ずかしすぎて死にたくなった。ハンドルを90度右にきってそのまま川に落ちたくなった。


しかしここで落ちては19年の歳月が無駄になるので邪念は捨て、素直に家へ向かう。道を忘れていないか心配もあったが、難なくたどり着けた。

鍵を開ける。虫が多いこの辺り、もしかして黒い悪魔だらけになっていないだろうか不安だったが、部屋はしんと静まりかえっていて、虫の姿は全然なかった。どうやら杞憂だったようだ。用を足そうと、トイレのドアを開ける。


洋式便器に茶色の水が張っていた。 コバエが飛んでいた。


「うぎゃぁぁぁぁ!!」ダッシュしてレバーを引き水を流す! すぐさま足を引いてドアを閉める! いったい何なんだ!! 俺が何かしたってのか!?

良く理解できないが、下水の方が逆流したのだろうか。1月以上放っておくとああなるのか……気をつけよう。ブルーレット置くだけとか置くだけでも(ややこしい)多少は効果があるだろうか? また検証してみよう。

荷を降ろし、少しくつろぐ。やたらと本の山がある。数えてみると、その本の山は10個くらいあった。あれ、こんなに本買っていたっけ。さすがに買いすぎ、ちょっとヤバイなぁと今更ながら反省してしまった。……さて、いい加減に風呂に入らないと。服を脱ぎ、風呂場へ向かった。


よく考えたらお風呂を沸かしていなかった。


一人で何をやっているんだ俺は。情けない気持ちになりながら、給湯栓をひねる。


豪雨。


何でカランにして帰らなかったんだ俺は!! もうこれはセルフ踏んだり蹴ったりの極みだな。

何とか身の回りのことも済ませる。そうするとドッと疲れが出てきた。寄り道は確かに楽しい。今回も楽しかったし、色々と面白い体験もできた。その「はしゃぎ」の反動だろうな、いい加減体を休めないといけない。
とか言いながらこんなに長い日記つけてるってどうよ。書くのかなり大変だったけど、これは読む方もさぞかし気疲れすることだろう。へっへっへ……どうもすみませんでした。