俺という薄壁が崩壊した

(何だかカオスってしまったので面倒な方はスルー推奨。)


世の中には応用というすばらしい工夫が存在する。
応用数学、応用英語……基礎を踏まえた上で、更に現実的な威力をもつ学問を生み出すのだ。近年になると、応用運動(フィット)、応用動画(スマイル)、とかくあらゆるものが最新の技術で応用されている。
何でも次のステップらしき場所へ担ぎ込もうとする人類の英知にはほとほと感心させられる。


ここで、応用確率というものの話をしよう。


確率というのは古来より人間の関心事であると同時に学問として非常に煙たがられる存在であった。一昨年のセンター試験数学1Aは確率のために鼻腔を震わせ涙をはらはらと流したうら若き少年少女も多かったことだろう。
確率という学びの塔は、同時に滅びの塔であり、かの天照大神もその苦しさに耐えかねて岩戸の中に身を潜めてしまったといわれるくらいだから我々凡夫たちにはそうそう敵うものではない。天照も今となっては暗闇の中ニコニコ動画に耽って外に出てこようとしないという話を聞いている。


応用確率……それは死の海である。
そこにはどんな生き物であっても生存することが出来ないという。
迷いこんだ命あるものは何もかもを搾取されてしまうという。
それはバミューダトライアングルが如く、さ迷う子羊を容赦なく襲う。
そして倒れた子羊の相貌には、救いの無い絶望と暗鬱な孤独の色だけが褪せずに残るのだ。


そもそも確率を応用しようとする試み自体が甚だ無謀であった。
ただでさえ一般人の手に負えない確率を応用するのである。
それは例せば錬金術が如し。鉄から黄金を生み出すようなものだ。
そんな所業、真理を見たことが無い人間に出来ることがあろうか。
私はまだ手を合わせるどころか陣を描いてでもそれを使役することが出来ない。
そんな応用確率は、もはや鬼に金棒、いや、鬼にエクスカリバーとでも言うべき相乗効果である。あるいはアリーナにバイキルトである。手に負えるものか。
ましてや「なんちゃって理系」である。
両手を縛ってうさぎ跳びをしながらマイクタイソンにケンカを売るようなものだ。
そんなもの、明らかな自滅行為かつ自虐行為である。
奇跡的に肩のうしろの2本のツノのまんなかのトサカの下のウロコの右あたりを突くようなことが起こらなければ間違いなくこちらがやられてしまう。


そういった考証の論理的正確さが如実に現れたのが今回の中間試験であった。


なめていたわけではない。
むしろ不織布でやさしく磨き上げていた。
確率関数、平均、分散、特性関数、モーメント……
手は尽くしたつもりだった。


だが試験時間というものは恐ろしい。
魔が潜んでいる。
いや、死神が目を光らせている。
その眼光に射抜かれてしまった私はまるで魂が形骸するような感触をおぼえ、問題用紙に何度注意を払っても創造らしい創造が全く出来なかった。
つまるところ、解答不可能状態であったのだ。


気がつけば三十分が経過し、任意に席を立つことが出来るようになった。
次第に散っていく理系学徒たち。
次第に散っていく儚き自分の希望たち。
次第に散っていく未来。希望。将来。
そうか、今やっと気づいた。
バミューダトライアングルは応用確率のことではない。



理系そのものを指しているのだ!



メーデー
私の清らかな魂は三つ子を迎えるまでもなくぷつりと息絶えてしまい、いつの間にか何やらどす黒い、薄明るい空の下で戯れた三段重ねのヘビ花火の残骸のように得体の知れぬぐろぐろとぐろを巻いた恐ろしいものが取って代わってこの肉体に鎮座している有様であるが、それでも等しく太陽はその身を燃やし明るさを分け与え、いつかやがて希望が仄かに香る日も到来することだろうとささやかに信じていたものだ。
しかし何事も無言のうちに虚無に放り込む魔の海域は魂さえも容赦なく遮断してしまった。
うつむいたまま斬首台に歩みを進めた私は街並みを彩る喪服の塊に後ろ姿を囁かれながらじっと終わりを待っていた。
いや、正確にはじっとする以上に見苦しさから逃れられる振舞いが出来ないからただじっとしていた。
残念ながら斬首台はしばらくその役目を放棄していたらしく錆にまみれた刃は一度の行為では本懐を果たせなかった。
何度も首筋に落下する衝撃。
その度に自らの生命という一連が何かをやむを得ず道中に放棄していく確信がよぎり、気がつけば視界は私自身の血糊に妨げられていた。
再び大きな衝撃。
終末が産声をあげる。



ぐわんぐわんと脳に響くげにやかましいこの騒音はきっとこれからも絶えることがないのだろう。八千年過ぎる頃くらいにはむしろ恋しくなるようにありたいがそれもきっと叶わない。私の夢は既に汚されている。


せめて魂の紙札に書き付けられる血文字が虚無を表すことの無いようにと祈るばかりである。



なんだか自分でもよく分からなくなってきたのでやめます。
実際こんなに病んでないよ! 元気だよ!