『ストレンヂア -無皇刃譚- 』

興奮冷め止まぬ。
勢いに任せて、ざっと感想をば。
劇場アニメ作品で、早い話チャンバラもの(時代劇)です。


ストレンヂア -無皇刃譚- (初回限定版) [DVD]

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制作はハガレンエウレカで有名なボンズ
スタッフもかなり有名どころが集まっています。


自分は全然そのあたりを意識していなかったのですが(見た後で大体知った)、ただアマゾンの商品ページで見たCM(劇中映像)に一目惚れして借りてきた次第です。


その、一目惚れの要因が演出でした。(後述します)


では、箇条書き気味に項目別の感想など。



シナリオ。
ずばっと言っちゃうと、物語は平凡です。フォローをすれば堅実と。
物語の幅を広げすぎないようにかなり気を配っていると感じました。
無駄に欲張ったいやらしい感じは全くなく、誰が見ても納得できる流れだと思います。


タイトルである『ストレンヂア』はどうも「よそ者」というような意味合いを持つらしく、それは物語の中心となる二人の剣士に理由がよく現れています。
ただ、他のキャラクター、いや、物語全体に「異国にいるような違和感」のようなものが漂っており(演出にも台詞にも)、そういう意味合いでは全体がうまくまとまっているような気がしました。
このタイトルは名称でありテーマだと思います。


主人公二人(名無しと少年)の交流は丁寧に描かれており、敵など他の軍勢もその内情がきちんと表現されていました。最初は名前などで戸惑うかも知れませんが、問題ありません、多分。キャラ造形は良い感じです。


人物に与える役割、詰まるところ活きるところと死ぬところですが、これはかなりシビアに決めてありました。
まぁ刀で斬られたり弓で射られたりすれば当然即死なわけで。あぁ、そんなあっさり……。
そういうところを逃げずに表現しきったことはかなり評価できると思います。
アニメ的な表現は逃すとして、ご都合主義な部分は少ないかと。
向かうところ敵無しかと思われた名無しも、何度も負傷したり攻撃をかわせなかったりと、確かにめっぽう強いけど人間離れしすぎたものでもないなぁと、劇中ではある意味で、安心感に似た心配がありました。ラストパートなんて、もう……。


とりあえずシナリオは、面白さについては抜きにして、問題は特にないと思います。



演技。
全く知らないまま見てましたが、え? 名無しは長瀬智也だったの?
息づかいが声優っぽくないけど、上手いなぁ、こういう人もいたんだと感心しながら聴いていたんですが……えー。
数年前からアフレコに俳優などを採用することが増えていますが、個人的体験では今まででダントツです。良かった。
他の人もかなり上手く(みたら超豪華な布陣)、キャスティング自体も的確になされていると思います。それぞれの性格と声、喋り方が一致していて、見ていて楽しかった。
脇役に至っても丁寧に配置されていたと思います。この作品、脇役もなかなか印象深い……。


ここはさすがプロの仕事と言うべきでしょうか。
良いです。



音楽。じわじわと外堀から埋めていきます。
さすが劇場作品、と言えば良いのかな?
太鼓と尺八を使った臨場感ある曲目が多かったです。
ヘッドホンで聴いていましたが、展開との動機で一気に興奮しました。
戦闘シーンなど緊迫感のある場面でうまく活きていたと思います。
メロディ的なキャッチーさはそんなにないけれど、見ているときは効果的だったので、役目はきちんと果たしているかと。
人間関係の演出など他のパートで用いられた音楽も、喜怒哀楽がわかりやすく表現されていました。


やや平凡な気がしますが、ビジュアルからの要求に見事に応えていたと思います。



作画。
アニメの醍醐味ですね!
この作品は「世界に誇る時代劇映画」と銘打たれていたらしく、作画には相当な力が入っています。
大人、子供、動物、とにかくよく動くなぁと思いました。
暗喩的表現が随所に盛り込まれているのですが、その時に描かれるちょっとした虫なども丁寧に描かれていて、挙動もいい感じ。


色合いもなかなかです。このあたりさすがハガレン(特に劇場版)を作っただけのことはありますね。
やや彩度低めの色合いで、文化がそう進んでいない、いかにも時代劇といった雰囲気が出ています。
背景(CG)と人物(セル画)の塗り方がどうしても違うので、そのあたり違和感を若干感じてしまいましたが……まぁ、構図が良いのでそっちに意識が流れるというか。いや、ちょっと惜しいですけど。


で、一番の見所はもちろんバトルシーン。
あんまりアニメを見てきてませんが、個人的に、チャンバラを描いたアニメは『サムライチャンプルー』がすごいなぁ、ちょっと次元違うよと思っていました。
でも、この作品はさらに凄い次元にまで到達しています。
貢献の大きいところは演出にあるため、ここでは控えめに言っておきますが、純粋にアニメが生み出せる「迫力」という勢いが凄いです。
迫ることと引くことがバランス良く描写されていて、テンポ良く、キャラクターが緩急を持って動いている様には感動しました。
アクションは本当に手に汗握ります。手に汗握っちゃいました。
「わっ」と思わず声を上げてしまいそうになる、一瞬での「詰め」。
ラストはやばいです、マジで。


作画は文句なし。
さすが劇場版、そりゃお金取るだけのことはあるよ。



演出。(ややえぐい言葉遣いを含みます)
安易な言葉を使うと、神です。鬼です。
どうもこれは新しいスタンダードになりそうな予感……?
構図も含めて言及しますが、カメラワークの移し方と言いますか、視覚的な注目を上手く操って、めぐるましく動く画面とキャラクターという、なかなかややこしい二つの要素をかなりの高次元で結合しています。
映像が忙しいのに、何が起こってるか分かっちゃうや、みたいな。


で、このカメラワーク、構図がとてつもなく優秀でして。
誰がどんな理由でそこにいるのか、という情報のばらし方がよく考えられており、映像は常に理解しやすい情報量を保ってました。
あえてパパっと流しちゃうところ(回想など)は、一枚一枚の絵がこちらの想像力だけで充分繋げられるもので、言葉では深く語られないキャラクター達の過去も大体脳内補完できます。
もっと知りたい、という欲求は当然残ってしまうのですが、この物語のメインはそこではないので。


戦闘シーンについては何度も言及していますが、凄すぎます。
スピード。これに尽きるでしょう。
上述しましたが、リアルに考えて危険物でやりあえば人間は即死します。
この映画は12歳未満お断り(保護者とね☆)となっているのですが、それは部位欠損が殆どの理由かと思われます。バンバン無くなっていきます。腕も、足も、頭も。
で、切れるからには慣性がついて吹っ飛んだりするんですが、それの勢いがもう、爽快!(待て)ってくらいに激しいです。(まぁ演出の一部なので当然ですが)


雑魚にしろボスにしろ死ぬときは一瞬です。
無駄にスローモーションなんて安易な表現を連発しません。
あれは一度か二度くらいだけ、深く深く狙い澄ますから意味があるのです。
とにかくズバッと両断されてしまう命。
エピソードは全く残りません。全てそこで終わりです。
だからこそ物語自体に余計な執着が無く、次へ次へとのめり込んでいけるのでしょう。
最後の争いは本当に凄いです。
生死の演出には挙動同様、非常にリアリティを感じました。
確かにアニメの時代劇ですが、見ているときの実感、緊張感は、それこそ松本清張の世界じゃないのかと思い返して感じます。


で、それら演出や構図の神髄は全て最後の一戦に集約されるのです。
そこにある背景は、アニメの世界からすれば三次元的に機能しているわけで、当然、意味があるわけです。
段があれば登り、煙があれば紛れ、雪があれば足が滑る。
動作それぞれがとても丁寧で、だからこそリアリティ、臨場感がとてつもないわけです。
見たこともない構図から見たこともない動きで繰り出される攻撃の数々。
そこら辺のアニメならそれで決着が付くような一撃の応酬。
長く使うには向いていない刀に当然のように現れるダメージ。
全てに息づかいが籠もっており、全てに汗水が染み渡っています。
緊張。一瞬。緊張。一瞬。
もう心臓弱い人は倒れるんじゃないかと。


自分、アニメではかなり戦闘シーンが好きなんですが、このラストバトルは今までの経験の中でもトップクラスに質の高いものだったと思います。
あそこだけ10回見ても良いです。誰か一緒に見ませんか。
最初にお高い「初回限定版」をあえて薦めたのは、これに原画集がついているからです。
いつか自分も買っちゃうと思います。


演出まわりは文句なしです。最高です。臨界点突破です。
これをアニメ演出の新しい地平線にして、更なる発展が起こればという望みを抱きました。
すっげぇぇぇぇぇっ!!(純粋な叫び)



総括。
映像作品としてみれば完璧でしょう。
物語の質だけを求めるのなら、見なくても良いです。
アニメが好きなら必見。作画には絶対満足できます。
アニメ映画ってジブリ以外はあんまり見ないな……って人にも強くオススメします。
シャンバラを往く者』といい、ボンズジブリ作品に挑戦しているんじゃないのかと。


時代劇が好きな人も是非。
前に『たそがれ清兵衛』を見て「こういう時代劇もあるのか!」と衝撃を受けましたが、今作では「こういう時代劇アニメがあるのか!」と衝撃を受けました。
筋書きがフィクション色のやや強い時代劇、という程度に収まっているので、アニメに馴染みが薄い人でも楽しめると思います。



いやぁ、やっぱ日本のアニメはすごいなぁ。
これは輸出してほしい。大々的に輸出してほしい。


和風ものは自分は描かないだろうなぁと思っていましたが(漫画)、揺らいでます。
日本刀……やっぱいいなぁ……。