風景の中の思想―いいちこポスター物語

衝動買いしてしまった1冊。状態やや悪の中古で200円。


タイトルから想像がつくように、これはロングセラー焼酎「いいちこ」宣伝ポスターを多数収録したものである。発刊が10年以上前なので、その時までのポスター、それから河北秀也氏(アートディレクター)によるエッセイが載っている。見開きで、左がポスター、右が文章という構成。


自分はまだ未成年なので、焼酎なんて飲んだことがないけれど、「いいちこ」自体はCMでよく見かけたし、毎回映像のセンスが良いので非常に印象に残っている。本書に収録された、ポスターも然り。


この本を読んで感動したのは、やはりポスターのセンスの良さだ。プロの仕事なので、構図が上手いとか、コピーが面白いとか、それはまぁ当然だが(こうやって宣伝ツールが本になっているし)、すごいのはこのポスター群がただ単に商品の説明をするというのではなくて、むしろお酒を嗜む一瞬を切り取った情景をあらわしているように感じること。それはつまり、勧めたい商品がその輪郭をはっきりとさせこちらに迫ってくるのではなく、「お酒を飲もう」という、大人びた雰囲気がこちらを「誘ってくる」ようなのだ。ボトルがわざとぼやけていたりと、既存の広告とはスタイルが全く異なっていることもその一因だと思う。
そういう意味で、本書に収められたいいちこのポスターは直接的な宣伝ではないかもしれない。
だが、他のお酒には、ここまで見る人を酔わせてくれるポスターはそうないだろう。
これはまさしくいいちこの広告であり、世界だと感じた。


作り上げていったアートディレクターたちに拍手を送りたい。


……すこし置き去りにしてしまったが、本書に収められたエッセイも非常に興味深く、ポスターと合わせてとても楽しむことができた。いいちこの写真はヨーロッパや真夏の島国で撮られるそうだが、その旅についての記述もあり、また著者自身の述懐もあり、いいちこと一緒に世界を旅している気分になれた。そういう点でも、楽しめる本だった。