『3時間熟睡法』

『3時間熟睡法―簡単に疲れが取れる驚くほど頭が活性化する』(大石健一 著)という文庫本をざっと立ち読みしました。タイトルに少し惹かれてしまったのです。


こんな本が世に出て良いのだろうか。


びっくりした。何がって、一つも知らないことが無かったのです。特に自分が「睡眠」について関心が強いわけでもないのに。せいぜいテレビや雑誌の特集を見聞きしているくらいなのに。
本書の内容を簡単に説明すると、まずくどくどと(仕方ないにしろ)何故睡眠時間の短縮を勧めるのかについてや、それによって生活がどう変わるかの説明があり(これで半分近くは終わっていた)、次にどのようにして睡眠時間を短縮するか、また日頃気を付けることについてのアドバイスが付してあり、最後に「ビジョンヨガ」とかいうちょっとした体操などの紹介がありました。
睡眠のことについて全く何も知らない、「もう眠りに関しては私はヒヨっこです、ハイ」というような人(どんなだ)なら得るものもあるかもしれません。しかし、この本の問題は、提示される知識の浅さとは別のところにあります。


結局、何で3時間なのかという「具体的な」根拠、説明がない。


ひたすらに睡眠の質を強調するだけで(それは間違いではないですが)、そこからどうやって3時間という思い切った数字に飛ぶのかというと、「ナポレオンは3時間睡眠だった」という発言です。びっくりした。
確かに理想ではあるんでしょうけれど、その「3時間」へたどり着くまでに恐らくぶち当たるであろう何らかの弊害が全く紹介されていません。本当に大丈夫なのだろうか。「今夜からやってみましょう」というメッセージがありましたが、どうせなら体験談や実験などを紹介(あれば)して、もう少し読者を納得させて欲しかったです。あとは「朝日を浴びて体内時計をリセット」「二度寝しない」「目標を持ってきちんと起きる」となどいう、恐らく常識的なトピックのみ。これでは500mlペットボトルのキャップの下にたまに付いている、紙のわっかみたいなやつに書いてあるミニコラムで事が済みます。本という媒体を選んだのに、どうしてここまで密度が薄いのか。いっそのこと「眠る前に満腹になってはいけないし、熱い風呂に入ってもいけない。軽い運動、そして温めのお風呂が良いだろう。起きがけは、朝日を浴びよう。二度寝はいけない。そして日々に目標を持つ。あとは気持ち次第だ。根性で頑張れ!」これだけの文章で十分な気もします。これで本書の半分以上は要約できているはずです。


いやぁ、タイトルに騙されて買わなくてよかった。最後に述べられた参考文献が、専門書ではなく同様の、ちょっとまとめてみました的な文庫が多かったので、これは「二番煎じの二番煎じ」なのかもしれません。内容の薄さに比べて参考が多いということは、実はオリジナルの部分は……と邪推までしてしまいました。


とにかく、ネットで調べればすぐに得られる知識だと思います。何が「知的生きかた文庫」だ。見城徹は「売れる本は良い本」だと述べていますが、この本がもし売れるようなら、その言葉がいくら真実を突いていたとしても、嘆かわしいことです。ネットで得られることを本にしても、多分売れない。簡単な絵を付けてみたとしても、多分売れない。本で「雑学」を出すとすれば、一体、どのような形式がいいんだろうなぁと考えてしまいました。