『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』

砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』(桜庭一樹

「私の男」で話題になっている桜庭一樹の短篇作品。
友人に押しつけられたので軽く読んでみました。所要時間約80分。


……うーん、これは何と言って良いのやら……。


まず言うと、これは描写を楽しむための小説です。
物語の展開、結末の殆どは全体の一割程度、20ページに至る前に分かってしまいます。


では、物語について。



少女がバラバラ死体になって発見される、という内容の新聞記事から本編が開始します。


これはなかなかインパクトがあります。
あまり読書をしない人がたまたま手に取って読み始めたのなら、「どんだけー」って感じで驚き、「これは凄い物語だ!」なんて思っちゃうのではないでしょうか。


で、それが前置きとなり、件の少女が田舎の中学校に転校してくるところから地の文が始まります。主人公は別の少女であり、全編は一貫してその娘の目線で描かれます。


ここからの展開は、それぞれの人物がどういう性格であるとか、環境にいるとか、そういう説明的なところから始まり、そして時々「最後の日」のシーンを交えながら進んでいきます。このあたりは現物を手にとってお確かめ下さい。



説明も面倒だな……普通に批評的なことを書こう。
賛辞ばかり送っても仕方ないので、基本的にツッコミというか、文句というか、要望というか。



・テーマ、描こうとしていたことは、ありふれたものとはいえ面白いと思います。個人的には第2章が一番面白かった。


・キャラクターの造形、作者のなかで渦巻いているイメージは大体感じ取れるんですが、説明不足、構成の甘さが気になります。急に際立ってくるキャラクター(先生)とか、違和感が……。


・作者の筆力が足りないと思います。場面転換の度に「空気」の表現(匂いとか)がなされるのですが、それが同じ単語の繰り返しであることが多く、イマイチ差異が伝えられないし、「地の文の表現を登場人物の心象に関連させて描く」という点で役目を果たし切れていないと思います。表現の意図が読めない。だから一字一句読んでいくのが辛いときがあり、結果としてテンポを悪くしてしまっているといえます。合間合間に挟む「最後の日」も、同じような表現ばかりな気がして、結局この場面はどのくらいの速度で時間が進んでいるのかが掴めないまま、過去が現在に追いついて……。


・そして、筆が立たないということは「厚み」も足りないということで。人物造形に若干リアリティが足りません。行動の分析であったり、あるいは感性的な好悪の表現。また、言動や行動に説得力を持たせるほどの描写が前もってなされていないときがあり、びっくりしてしまいます。主人公が中学生ということで、そのあたりの表現をわざと稚拙にしているのかもしれませんが、それでも行動の描写は甘いかなぁ……と思います。このあたりが文学になりきれていないかと。(つまり感情移入できない)


・で、本当にこの拙さが致命的で。一見して救いようのない話のようだけど、作中に散りばめられた「人魚」のささやかな心の機微だとか、空気の匂いだとか、みんなが腹の底にそれぞれ抱えたもののかたちだとか、そういうところから「希望」だとか「救い」だとかを必死に汲み取っていくことも出来るんです。でも、そういう風に自分の解釈を持っていくためには、配置されたものがあまりにも足りないかなぁ、と。だからこそ、どうしても「悲しい話」という読了感しか残らないのではないかと思います。日常を描いているわけでも、死を、狂気を描いているわけでもないような。それから、「実弾」という語の使い方が、生理的にあんまり受け付けませんでした。残念。


・「人魚」の描写に関しては、感性的な面では同意できます。この題材で「重松清」が筆を執ったらそりゃもうネチネチと「悲しみ」と「絶望」をネリネリしていくでしょう。そしてその上で必死に「救われる瞬間」というものを用意しようとするでしょう。
この本を読みながら、その重松清の『ビフォア・ラン』を少し思い出してました。これはまた大きく違う物語なんですが、物語の構成というか、結末というか、何となく少し似ているような気がします。砂糖菓子〜が気に入った方は一度読んでみて下さい。


・惜しいです。
薄いのが惜しいです。
あと2、30ページ余分に使っていれば、そして、明らかに不要なたくさんの背景描写を別の表現に換えていれば、それぞれのキャラクターも存分に持ち味を発揮して、真っ当な意味での「リアリティ」が生まれていたのではないかと思います。きちんと作り直せば、十分に「読める」作品になるのではないかと。まぁ、今の薄さだからこそ広く読まれたのかもしれませんが。
主観的に、ブラッシュアップ出来そうな余地が色々と見えてしまい、そこがやたらと気になってしまいました。残念。


・もっとエグくても良いと思います。もっと映像的でも良いと思います。ここをとことん突き詰めて、結果的にコントラストのように「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」ことをはっきりくっきりと示して欲しかった。浮かび上がってこないものが多く、それが本当に悔やまれます。オリジナリティがまだ足りない。



以上。


まぁ、興味がある人は読んでみても後悔はしないかなぁ。単行本でなく、文庫で読まれることを推奨します。
ただ「重いだけで重厚じゃない」と言われてもあんまり反論できない気もするので、それほど気構えせずにページを繰ってもらいたいです。
とはいえ、「わーいこれは手軽な鬱小説だ!」なんていう甘っちょろい気持ちで読み始めるのも、作品に対して失礼ですが。
やっぱり、あんまり嬉しがりにならずに淡々と読んでいくのが良いかと……。